立徳ブログ おもしろい本とDVDの話

世界をよく理解して、自分の頭で考え行動するのに役立つ本とDVDを紹介します。そして、たまに時事評論も。 書名・作品名をクリックすると、さらに詳しい情報がわかります。

現代イスラムの潮流

宮田律、現代イスラムの潮流、2001年、集英社新書

  第1章 イスラムとは何か
 この章では、イスラム教の概要とアラブ・イラン・トルコの歴史の概略が書かれている。

 イスラム教は、六信に基づき、五行を行うとされている。六信とは、神(アッラー)天使、啓典(コーラン、『旧約聖書』のモーセ五書および詩篇、『新約聖書』の四福音書)、預言者(アダム、ノア、アブラハム、モーセ、ダヴィデ、イエス、ムハンマドなど)、最後の審判の日、神の予定を信じることである。

 五行とは、信仰告白(「アッラーの他に神はいない。ムハンマドはその使徒である」と唱える)、礼拝(1日に5回、日の出、正午、午後、日の入り、夜に聖地メッカの方角に向かって行い、金曜の正午は集団礼拝となる)、断食(1年のうちでラマダーンと呼ばれる月の日の出から日の入りまでの時間帯に行う)、喜捨(収入の2.5%を貧しい人々のために与える)、巡礼(一生に一度メッカに赴くことが望ましいとされている)である。

  第2章 イスラムの宗派と、民族の融和と抗争
 イスラム教にはスンナ派とシーア派という宗派がある。スンナ派は預言者ムハンマドに続く4人のカリフ(イスラム共同体の最高指導者)とその後のイスラム王朝を、イスラム共同体の正統な指導者と見なし、預言者のスンナ(慣行)に最上の価値を認める。これに対して、シーア派はムハンマドの娘婿アリーとその子孫のみを正統な指導者と見なす。シーアとはアラビア語で党派という意味で、シーア派は当初アリーの党派「シーア・アリー」と呼ばれていた。

 イスラム世界ではスンナ派が圧倒的多数(信者の9割)を占め、シーア派はイラン以外では少数派なので、各地で様々な差別を受けてきた。これが現在の宗派間の対立・抗争の原因になっている。

 イスラム世界では長い間他の宗教とはうまく共存し、民族間の対立もなかったが、近代に入り西欧のナショナリズムが導入されてから、宗教や民族の間で対立や抗争が発生して、現在に至っている。

  第3章 成長する[イスラム原理主義]とは何か
 まず、「イスラム原理主義」という用語は武力を用いる一部の過激な集団の行動がこの運動全体の特徴のような印象を与えるので、「イスラム政治運動」という表現を使ったほうがいい。

 「イスラム政治運動」は政治・社会の中心にイスラムを据えようとする運動で、イスラム法に基づくイスラム国家の樹立を求めている。運動家たちはイスラム法が守られることによって社会のあらゆる問題が解決されると考えているのである。

 「イスラム政治運動」の組織は国家に代わって教育・社会福祉事業を積極的に行うことによって、支持者を増やし勢力を拡大している。

  第4章 パレスチナ問題
 第一次世界大戦後パレスチナでユダヤ人とアラブ系パレスチナ人とが対立するようになり、4回の中東戦争(1948〜49、56、67、73年)およびレバノン戦争(1982年)を経て、1980年代末にイスラエルの占領地(ヨルダン川西岸およびガザ地区)でパレスチナ人によるインティファーダ(蜂起)が起こる。1990年代になってイスラエルとパレスチナ人との間で和平プロセスが始まったが、21世紀になってこのプロセスは危機に瀕している。

  第5章 現代の[ジハード]をスケッチする
 本来「ジハード」とはムスリム(イスラム教徒)の強い努力を伴う行動という意味であり、戦争と同義ではない。「イスラム政治運動」で主流となっている「ジハード」とは教育・社会福祉事業を通じたイスラムの教えの普及である。

  第6章 イスラムとの共存・共生を考える
 イスラム世界では欧米モデルによる近代化が失敗して、イスラムの伝統的価値観に基づく改革運動が多くの人々の支持を得るようになった。
 イスラムを理解せずして、イスラムとの共存・共生はあり得ない。

 (紹介者コメント)
 この本はイスラム世界の入門書としてはよくまとまっていて手頃なものだといえる。ただ、出版されたのが2001年9月11日より前なので、最新の動向はわからない。それから、第4章の記述だけではパレスチナ問題を十分に理解することはできないように思われる。イスラエル建国以後については詳しい記述があるが、建国前の部分が簡単すぎて、ユダヤ人とアラブ人が対立するようになった原因がわかりにくい。この2点についてはほかの本で補う必要がある。

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