アメリカ時代の終わり
チャールズ・カプチャン、アメリカ時代の終わり〈上〉
およびアメリカ時代の終わり〈下〉、2003年(原著は2002年)、日本放送出版協会(NHKブックス)を紹介する。
第1章 グランド・ストラテジーはなぜ必要か
大国が適切なグランド・ストラテジー、すなわち自国が世界の中でどのような方向に進んでいくかを定める戦略を持てば、国際システム全体が安定する。したがって、アメリカはグランド・ストラテジーを持つ必要があるが、いまだにアメリカ政府は冷戦終結後の新しい国際情勢に対応したグランド・ストラテジーを持っていない。
第2章 アメリカの新しい世界地図
新しいグランド・ストラテジーを構築するには、新しい世界地図、すなわち新しい国際情勢を正しく認識する枠組みが必要だ。そして、この世界地図についてはパワーの分布に基づいたものが最も適当である。
第3章 グローバリゼーションと民主主義
グローバリゼーションと民主主義が平和を促進するという議論があるが、このような議論は一面的だ。グローバル化した経済は、繁栄と同様に困窮をも簡単に伝播させ、経済的な苦境は、国内政治と国際政治の双方に恐ろしい影響をもたらしうる。一方、民主主義の基盤にはナショナリズムがあり、ナショナリズムは他国との競争関係を激化させるおそれがあるのである。
第4章 ヨーロッパの勃興
19世紀半ばに成立したドイツ帝国と古代の東西ローマ帝国のように、新しい勢力が勃興したり、1つの勢力が分裂したりして、国際システムが一極から双極または多極に移行すると大国同士が深刻な対立関係に陥った歴史がある。アメリカとEUも将来このような関係になるおそれがある。
第5章 アメリカの本質
建国以来のアメリカの歴史を振り返ると、アメリカがリベラルで積極的な国際主義という立場にあったのは第二次世界大戦以後の例外的な現象である。
第6章 世界からのアメリカの撤退
現在のアメリカの外交政策では孤立主義と単独行動主義の傾向が強く、この傾向は将来ますます強まっていくだろう。そして、アメリカは本土の防衛を最優先して、国際的な関与を減らしていく可能性が高い。
第7章 パックス・アメリカーナの後
アメリカ合衆国の連邦制度の発達、19世紀前半のヨーロッパ協調、第2次世界大戦後のヨーロッパ統合の例から考えて、国際システムを安定させ国家間の関係を平和なものにするには、戦略的抑制の行使、拘束力のある諸制度の確立、社会的統合の追求が必要である。
まず、「戦略的抑制の行使とは、他者のために力を制御し、譲歩することである」( 172頁)。アメリカはヨーロッパの自立と東アジアの地域統合を歓迎すべきだ。
次に、拘束力のある制度は戦略的抑制を実行に移すための中核的な手段である。「アメリカは自身の優位を頼みに孤立するのではなく、反対に間もなく依存せざるをえなくなる制度の方向づけに自身の影響力を行使すべきである」(220頁)。具体的には、アメリカ、EU、ロシア、中国、日本、およびインド、ブラジルなどの各地域の主要国から構成されるグローバルな理事会を新たに設立して、世界の主要な勢力間の関係を管理する方向に向かうべきだ。
第三に、「社会的統合とそれにともなう共通のアイデンティティとは、共同体構築と、戦略的な対立の解消を不可逆的にするという解決につながる」( 228頁)。社会的な交流および国際制度によって、世界の主要勢力の間で「共通の利害を有するだけでなく、共通の義務を有する」(231頁)という意識が深められることが必要だ。
第8章 歴史の再生へ
これまでの世界の歴史では支配的な生産様式が変化すると統治機構および統治機構に正統性を与える共同体アイデンティティ(図3では共同体IDと略称)も変化してきた。
図3 歴史時代(244頁)
遊牧民時代(紀元前8000年以前)
生産様式:狩猟採集、主要統治機構:移動集団、共同体ID:アニミズム
初期農業時代(紀元前8000〜紀元前3000年)
生産様式:狩猟・園芸、主要統治機構:部族・首長制、共同体ID:自然崇拝
農業時代(紀元前3000〜1700年)
生産様式:耕作、主要統治機構:王国または強圧的国家、共同体ID:体系化した宗教
産業時代(1700〜2000年)
生産様式:産業資本主義、主要統治機構:民主主義、共同体ID:ナショナリズム
デジタル時代(2000年〜)
生産様式:デジタル資本主義、主要統治機構:?、共同体ID:?
21世紀から始まったデジタル資本主義は従来の産業資本主義の下で発達した民主主義と国民国家の根幹を危うくしつつある。デジタル時代に対応した新しい政治システムの構築に失敗すると、国内だけでなく国際政治においても混乱が生じるだろう。
(紹介者コメント)
この本は世界の将来を展望するためには必読のものといえる。ただ、著者は現時点ではデジタル時代に支配的な統治機構と共同体アイデンティティがどのようなものになるか予測することは困難だと書いている。この点は残念なところだ。
応援ありがとうございます。
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第1章 グランド・ストラテジーはなぜ必要か
大国が適切なグランド・ストラテジー、すなわち自国が世界の中でどのような方向に進んでいくかを定める戦略を持てば、国際システム全体が安定する。したがって、アメリカはグランド・ストラテジーを持つ必要があるが、いまだにアメリカ政府は冷戦終結後の新しい国際情勢に対応したグランド・ストラテジーを持っていない。
第2章 アメリカの新しい世界地図
新しいグランド・ストラテジーを構築するには、新しい世界地図、すなわち新しい国際情勢を正しく認識する枠組みが必要だ。そして、この世界地図についてはパワーの分布に基づいたものが最も適当である。
第3章 グローバリゼーションと民主主義
グローバリゼーションと民主主義が平和を促進するという議論があるが、このような議論は一面的だ。グローバル化した経済は、繁栄と同様に困窮をも簡単に伝播させ、経済的な苦境は、国内政治と国際政治の双方に恐ろしい影響をもたらしうる。一方、民主主義の基盤にはナショナリズムがあり、ナショナリズムは他国との競争関係を激化させるおそれがあるのである。
第4章 ヨーロッパの勃興
19世紀半ばに成立したドイツ帝国と古代の東西ローマ帝国のように、新しい勢力が勃興したり、1つの勢力が分裂したりして、国際システムが一極から双極または多極に移行すると大国同士が深刻な対立関係に陥った歴史がある。アメリカとEUも将来このような関係になるおそれがある。
第5章 アメリカの本質
建国以来のアメリカの歴史を振り返ると、アメリカがリベラルで積極的な国際主義という立場にあったのは第二次世界大戦以後の例外的な現象である。
第6章 世界からのアメリカの撤退
現在のアメリカの外交政策では孤立主義と単独行動主義の傾向が強く、この傾向は将来ますます強まっていくだろう。そして、アメリカは本土の防衛を最優先して、国際的な関与を減らしていく可能性が高い。
第7章 パックス・アメリカーナの後
アメリカ合衆国の連邦制度の発達、19世紀前半のヨーロッパ協調、第2次世界大戦後のヨーロッパ統合の例から考えて、国際システムを安定させ国家間の関係を平和なものにするには、戦略的抑制の行使、拘束力のある諸制度の確立、社会的統合の追求が必要である。
まず、「戦略的抑制の行使とは、他者のために力を制御し、譲歩することである」( 172頁)。アメリカはヨーロッパの自立と東アジアの地域統合を歓迎すべきだ。
次に、拘束力のある制度は戦略的抑制を実行に移すための中核的な手段である。「アメリカは自身の優位を頼みに孤立するのではなく、反対に間もなく依存せざるをえなくなる制度の方向づけに自身の影響力を行使すべきである」(220頁)。具体的には、アメリカ、EU、ロシア、中国、日本、およびインド、ブラジルなどの各地域の主要国から構成されるグローバルな理事会を新たに設立して、世界の主要な勢力間の関係を管理する方向に向かうべきだ。
第三に、「社会的統合とそれにともなう共通のアイデンティティとは、共同体構築と、戦略的な対立の解消を不可逆的にするという解決につながる」( 228頁)。社会的な交流および国際制度によって、世界の主要勢力の間で「共通の利害を有するだけでなく、共通の義務を有する」(231頁)という意識が深められることが必要だ。
第8章 歴史の再生へ
これまでの世界の歴史では支配的な生産様式が変化すると統治機構および統治機構に正統性を与える共同体アイデンティティ(図3では共同体IDと略称)も変化してきた。
図3 歴史時代(244頁)
遊牧民時代(紀元前8000年以前)
生産様式:狩猟採集、主要統治機構:移動集団、共同体ID:アニミズム
初期農業時代(紀元前8000〜紀元前3000年)
生産様式:狩猟・園芸、主要統治機構:部族・首長制、共同体ID:自然崇拝
農業時代(紀元前3000〜1700年)
生産様式:耕作、主要統治機構:王国または強圧的国家、共同体ID:体系化した宗教
産業時代(1700〜2000年)
生産様式:産業資本主義、主要統治機構:民主主義、共同体ID:ナショナリズム
デジタル時代(2000年〜)
生産様式:デジタル資本主義、主要統治機構:?、共同体ID:?
21世紀から始まったデジタル資本主義は従来の産業資本主義の下で発達した民主主義と国民国家の根幹を危うくしつつある。デジタル時代に対応した新しい政治システムの構築に失敗すると、国内だけでなく国際政治においても混乱が生じるだろう。
(紹介者コメント)
この本は世界の将来を展望するためには必読のものといえる。ただ、著者は現時点ではデジタル時代に支配的な統治機構と共同体アイデンティティがどのようなものになるか予測することは困難だと書いている。この点は残念なところだ。
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