立徳ブログ おもしろい本とDVDの話

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考えることの科学

市川伸一、考えることの科学―推論の認知心理学への招待、中公新書、1997年を紹介する。

   第1部:人間は論理的に推論するか

  第1章:形式論理と日常的推論

 人間の日常的推論は「形式よりも内容に依存する」(同書14頁)。

  第2章:論理的推論の認知モデル
 「人間は、論理式を操作するような思考はおよそできず、視覚的なイメージをモデルとして操作しながら、さまざまな場合を吟味していくというやり方をとる」(同書39頁)。

 (紹介者による注釈)論理式は命題ともいい、判断を言語で表したもの。
(例)ホタルは昆虫である。

  第3章:帰納的推論−−一を聞いて、十を知って、三誤る
 推論には演繹(えんえき)と帰納という2つのタイプがある。「演繹とは、前提が真であれば結論も必ず真となるようなタイプの推論である」(同書42頁)。

 (紹介者による注釈)
 演繹の例:

  前提1:すべてのホタルは昆虫である。
  前提2:ゲンジボタルはホタルである。
  結論 :よって、ゲンジボタルは昆虫である。

 このように、「演繹では、結論で述べている内容は、実は前提の中に暗黙に含まれている」(同書42頁)。

 これに対して、帰納は演繹でない推論すべてのことである。
 帰納の例:
  前提1:メキシコ人のホセは、とても陽気な人だった。
  前提2:メキシコ人のカルロスも、とても陽気な人だった。
  結論 :メキシコ人はみんな陽気なのだ。

 この例のように、帰納的推論には前提と結論の間に論理的飛躍があり、前提が真だからといって結論が正しいとは限らない。陽気でないメキシコ人が1人でも実在すれば結論は間違っていることになる。そして、人間はこのような性質の帰納的推論をやることが多い。

   第2部:確率的な世界の推論

  第4章:確率・統計的な現象に対する理解と誤解
 確率については次のような誤解がある。まず、賭博者の錯誤。これは、コイン投げで何回か続けて表が出ると、次は裏が出やすくなると考える心理的現象をいう。理論上は、コインの裏が出る確率はコインを投げるたびごとにそれ以前の結果とは関係なく常に50%である。

 次に、標本の大きさの無視。標本とは調査のために取り出した集団のことで、小さい標本ほど調査結果が理論上の確率からずれる程度が大きくなる。この点を考慮に入れないのを標本の大きさの無視という。たとえば、大病院と小病院とを比較すると、小病院のほうが男の子の生まれる確率と女の子の生まれる確率との差が大きくなる。にもかかわらず、小病院での調査結果をもとに結論を出すと間違う。

 統計については次の2つの点に注意すべきである。

 統計調査の結果、父親の身長(X)が高いほど息子の身長(Y)が高いという傾向が見られる場合、XとYの間には相関があるという。注意すべきは、「相関関係から短絡的に因果関係を推測してはならない」(同書80頁)ということだ。Yの原因にはX以外のものもあり得るからだ。

 次に、統計的な現象においては「完全相関でない限り、予測値は必ず平均に近くなる」(同書84頁)という回帰効果があることを忘れてはならない。たとえば、大リーグで新人賞をとった野球選手は2年目には成績が悪くなることが多い。この現象は回帰効果の現れだと理解すれば格別不思議なことではない。

 (紹介者による注釈)
 完全相関は、Xを横軸、Yを縦軸にグラフを作成したら、右上がりまたは左上がりの直線をきれいに描ける場合のことをいう。完全相関は理論上の概念で、現実の世界ではまずあり得ないといっていい。

  第5章:ベイズの定理をめぐる難問・奇問
 日常的な推論では事前確率を無視する傾向がある。事前確率とはある現象に関する情報が得られる前の確率をいう。これに対して、情報が得られた後の確率は事後確率という。
 (例)サイコロを投げて目が1である確率は事前確率の場合6分の1、出た目が奇数だと知れば事後確率3分の1になる。

 (問題)ある町のタクシーの15%は青色、85%は緑色である。ある日、タクシーによるひき逃げ事件が起きた。1人の目撃者の証言によると、ひいたのは青色のタクシーだったという。ところが、事件現場は事件の発生時は暗かったこともあり、目撃者が色を見間違えた可能性もある。そこでこの目撃者がどのくらい正確にタクシーの色を認識できるかを同様の状況下でテストしたところ、80%の場合は正確に色を判断できるが、20%は間違うことがわかった。さて、目撃者の証言どおり青色のタクシーがひき逃げをした確率はどれくらいだろうか。

 この問題に対して80%と答えれば、事前確率を無視していることになる。正しい確率を計算するにはこの町のタクシーの色の割合を考慮に入れなければならない。そして、データから仮説の確からしさの程度を求める定式であるベイズの定理を用いれば正しい答えを導き出すことができる。式は次の通り。

 (目撃者が正しくタクシーの色を青だと判断する確率)
―――――――――――――――――――――――――――――
(目撃者が正しく青だと判断する確率)+(間違って青だと判断する確率)

これは次の式に等しい。

 (町のタクシーが青色である割合)×(目撃者が正確に色を判断する確率)
――――――――――――――――――――――――――――――
(目撃者が正しく青だと判断する確率)+(間違って青だと判断する確率)

(目撃者が間違って青だと判断する確率)を求める式は、
(町のタクシーが緑色である割合)×(目撃者が間違って色を判断する確率)
だから、

   0.15×0.8               0.12
 ――――――――――― = ―――――――――――― ≒ 0.41
   0.15×0.8+0.85×0.2       0.12+0.17

となり、
目撃者の証言どおり青色のタクシーがひき逃げをした確率は約41%である。

  第6章 確率・統計問題での推論のしくみと学習
 第4章と第5章で見たような確率・統計的な現象に対する誤った判断を防ぐには、円グラフを使って視覚化してから考えるとよい。

   第3部 推論を方向づける知識、感情、他者

  第7章 推論は知識に誘導される
 人間は物事の認識・記憶および問題解決の際スキーマと呼ばれる知識体系を利用して情報を処理する。このスキーマによって推論が誘導され、間違った結論が導き出される場合がある。

  第8章 因果関係を推論する
 因果関係に関する日常的な推論では因果スキーマが用いられる。因果スキーマは日常体験を通じて形成されるので、これだけに頼ると科学的には間違った推論がなされるおそれがある。

  第9章 自己の感情と他者の圧力
 人間は基本的に自分の自尊感情を満足させたいので、自分の意見が多くの人に支持されていると思う傾向が強い。また、「自分の考えに合っていることや、自分に都合のよいことに向かって積極的に情報収集し、都合の悪いことは直視したがらないもの」(同書170頁)だ。「ところが、一方では、人間は自分の考えや判断が他者と一致しているかどうかを絶えず気にかけている」(同書 174頁)。さらに、話をしているときは、話の内容だけでなく、話をしている自分が相手にどのように受け取られるかを気にする。

 以上、日常的な推論における様々な問題点を見てきたが、このように人間の思考にはゆがみが生じがちだということを知ってはじめて、我々人間はよりよい思考ができるようになるのである。

 (紹介者のコメント)
 この本は第2部がやや難しいと感じられるかもしれないが、説明は丁寧なので読めば内容は十分理解できると思う。論理的思考ができるようになるためには、この本を読むだけでは足りないだろう。

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